2008年12月27日

風と木の詩(完) 全17巻+番外編

【風と木の詩】 全17巻+番外編  /竹宮 惠子

1880年、南フランス、プロバンス地方に位置するラコンブラード学院。
両親を失ったがバトゥール家の継承権を持つセルジュ・バトゥールは、父が青春を過ごした学院にやってきて入寮する。
同室になったのは誰にでも躰を許すと噂される問題児のジルベール・コクトーだった。
ジルベールは奔放で脆く、セルジュは彼に翻弄されていく。

前半部は学院に来たセルジュとジルベールの生活。
中盤はそれぞれの生い立ち。
後半部は、セルジュの愛を取ったジルベールがオーギュストの手から逃れて……。

今から32年前から連載が始まった作品。
安保闘争から約10年後(wikiによると安保の頃の構想がこの作品の基盤になっている)。
当時の反体制、自由への渇望と精神を無視して、この作品は語れない。
作者は背徳への美を描きながら、背後にはその主張を展開している。

1976年といえば、村上龍が芥川賞を取り、邦画が大ヒットした。「およげ!たいやきくん」が流行って、ピンクレディーがデビュー。
前年にベトナム戦争が終結している。この年にジョン・レノンは育児休暇に入る。「イマジン」のヒットは1975年。
そんな時代にホモセクシャルを真っ向から扱うって、どんな社会派だったんだろう。衝撃を持って受けとめられただろうと思う。
子どもで、なおかつ漫画を読む環境になかった私でさえ、この作品の名前は知っていた。
小学生から中学生になりかけるくらいの年頃からの同性愛なんて、今だって問題にされるはず。
ダダイズム的な古典作品を継承、と文学なら言えるかもしれないが、当時は“子どもたちの読み物であった漫画”からしてみると、ずいぶん叩かれたことだろうと思う。

名前からして同性愛者だったジャン・コクトーの影響も受けているはず。
寺山修司の解説を読みながら……退廃の美学は、今はどこに行ってしまったのか。
雁字搦めに思考能力を奪う体制や圧力に対し、個人の尊厳を持って自由に叫ぶ、それが根底にある。
でも、体制そのものが崩れてしまった今、戦うべき相手がオブラートに包まれ、甘くシャンティされてしまった今は、共有認知的良識がなければそれらは存在しない。
個人的にはその美学は自己陶酔にも思ってしまうのだが。

シナリオ、よく練られてる。
行為ひとつひとつに、思想的裏付けがある。その人物の生い立ち、背景、感じ方、それぞれの立ち位置から行動が繋がっている。
当たり前のことなんだけど、最近の漫画でそこまで考えられているのってどのくらいあるのだろうか?

文体が古典文学を読んでいるよう。フランス戯曲なんて、こんな感じに訳されてた。昔は名訳が多かったのだ。訳者は日本語にも繊細に長けていた。
バルテュスとかバタイユとか……ちらちら向こうに見えてくる。

感情部分の感想では、反社会的なモノが美化され過ぎ。
それを“青春”と片付けてしまうのも気持ちが悪かった。
好みの問題としては、絵は好きじゃない。
構図は素晴らしい。でも、あまり好きなカットではない。
ここは超個人的な感想部分。

パスカル、良いなあ。こういうキャラ好き。

名作と言われた理由もわかる気がした。
これは読まれるべき作品と言える。
                         2008/12/26

番外編/
本編の三年後。残されたセルジュのその後。
アリオーナ・ロスマリネとジュール・ド・フェリィの過去と今。
                         2008/12/26

UP追記>
結末のつけ方は「なんだかなー、そう締めくくっちゃっていいの?」みたいな一抹のがっかり感はあったんですが、上記のような時代とともに生きた作品としてみると納得出来るものがありました。
連載は8年続き、折しもバブル最盛期で終わっている。つまり、あのラストは「理想の終焉」だったのかなと思えます。戦後、もっとも変動した時代かもしれません。
感傷的に言えば「美学の死」だったのかもしれませんね。
最後まで失速することなく、ハードな世界を描き続けてこられたこと……すごいです。

《こんなふうにおススメ》
ずいぶん漫画を読んできて、ここまで「時代」や「思想」というものを感じさせられた作品はなかった気がします。
漫画史を考えるのなら、読むべき作品。
安保闘争、少し考えたいと感じました。

【コミックスセット】


ラベル:竹宮惠子
posted by zakuro at 03:49| Comment(0) | 漫画-少女レディース系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

た【竹宮惠子】

【竹宮 惠子】 たけみや けいこ

風と木の詩


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posted by zakuro at 03:36| Comment(0) | 作家別【た行】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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