2009年05月27日

Over The Moon

【Over The Moon】 全01巻  /宮城 とおこ

短篇集。

・「満月」
双児の兄妹、ナオとアキラ。アキラは満月になると気がおかしくなる。そのアキラを養うため、ナオはスリ行為を繰り返す。

・「W〜double〜」「CAN'T LIVE WITHOUT YOU」
「もうひとり、自分がほしい」と願った川村亜由。「もうひとりの私」を名乗る少女リィンが現れる。亜由に呼ばれて仮想月(リリト)から地球にやってきたという。
この仮想月と地球は表裏一体、それぞれにW(ダブル)と呼ばれている同じ魂を持つ者がいるという。
ふたりでひとつの魂を共有しているため、亜由とリィンも感情や現象が常にシンクロしていく。

・「オタクの花道」
梅原あゆむ、17歳。頭脳明晰、容姿端麗。でも、オタク。四コマ。

・「NEUTRAL」
人造人間、ホムンクルスを創る技術者たち。しかし、ゆつきは失敗作と言われていた。性別が無い中性だったからだ。
ゆつきを製作した狂の息子の竜と、ゆつきの話。

エキセントリックなファンタジー。この作家の初めてのコミックス。
全話においてツッコミどころは満載だけど、それはそれ。

言動不一致のバカな亜由もうざいんだけど、それも含めてたぶん、雰囲気を楽しむ作品なのだ。
四コマが一番面白かった。

奥付けは97年。地球をエヴァと読ませるのも、この時代って感じ。
この頃の絵って、初期の高河 ゆんに似ている。こういう絵、流行ってたよなー。
こういう作風も。そしてテーマも。

今までに読んだもの、いろんな作品の中で、何か引っかかるものがある作品があった。それがなんだかわからなかったのだが、これを読んで納得したものがある。
些細な問題でもそれを飲み込むというより、あえて表面化させて、アイディンティティを壊していくのがカッコいい、みたいな、そういう風潮に対しての疑問だったのかもしれない。
この、たった一冊の短篇集なのだけど、時代というものを感じてしまった。
だけど、こういう蓄積、試行錯誤が、今の豊富なコンテンツを生み出していく要因になっているのには違いない。

この作家もBL(ボーイズラブ)を描いているのだが、そのあたりの“揺れ”も風潮だったのだろう。
ここで、BL論を展開するつもりもないけど、軽く少しだけ。
BLは、70年代から竹宮 惠子に代表される反社会的な立ち位置から、80年代の多様文化の許容を経て、90年代は精神の“揺れ”の位置づけになっていく。
この90年代半ばで、この道は大きく二つに分かれる。それまで辛うじて保っていた表面張力が溢れるように、爆発していくのだ。
それまでの流れの延長線にあたる、“揺れ”たままの、成長期間においての葛藤や人生の模索をBLに預けていく道と、今のお気軽ブームの前身にあたる「もうさ、いろんなこと考えるの面倒じゃない? このジャンルってアバンギャルドで面白いし、それはそれで良いじゃん、楽しければ」的な、ファンタジー要素へと一気に爆発するのだ。
この後者はとても日本的で、江戸の「ええじゃないか」にも現れるように、黒船来航や、明治維新の時なども、民衆に同じような現象が起きている。
良いか悪いかは別にして、風俗文化の成熟のひとつとしてみると、私はそのジャンプをどこかで信じている。

そんなふうに、漫画やアニメを通してその時代を感じてみて、気づくことも多い。
バブル崩壊以降、価値観も大きく様変わりして、内面追求に移行していくのだが、お手軽表層主義が一気に変わるわけでもなく、模索する時代が続くのだ。それが90年代だったのだろう。
2000年を越えてから、バブル期の浮かれた風潮を肌で感じていない若い世代が台頭してきて、これが超個人主義になり,細分化されていく。

例えば、アニメに関して言えば、それまでは、高河ゆんや庵野秀明らの影響は強かったんだと思えるのだ。
行き当たりばったりのエヴァンゲリオンに対しての、サンライズやBANDAI、毎日放送のチームのマーケティングってほんとにすごいと思う。そういうMBAチックな構造の作り方も、ベースが出来たのはこの時期。それまではコンテンツビジネスそのものだって、行き当たりばったりだった。
2000年以降、京都アニメーションを始めとする小さなスタジオや新しい制作会社が現れ、フロッグマンなどのインディーズレーベルが活躍し出すのも、その時代の流れとリンクする。
非常にシステマティックに無駄を少なく、様々な要素を理解した、マーケティングがし尽くされて動く会社が増えている。

「秋葉原の功罪って、今まで皮膚一枚下にあったモノを、皮膚の上に認識しちゃったことだと思う」
秋葉原に住んで、そこで仕事をしている友人の名言。
表面化した精神的病理は、自然の中に溶け込んで、そのままにあるがままに生きる選択になっていけば良いと思う。
最近、アキバ的なものを感じるたび、そう思うのだ。
                         2009/5/19

UP追記>
作品の感想というよりは、時代論になってしまいました。
でも、そのままUP。

《こんなふうにおススメ》
個人的にはこの作品は好きじゃないのですが、この作家さんの思考の流れに沿ってみると、外せないです。
そこは面白いと思う。
この作品にある、揺らぎや危うさを、BL作品で回収しているのも興味深い。



ラベル:宮城とおこ
posted by zakuro at 05:14| Comment(0) | 漫画-少女レディース系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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